ザックを背負って準備したのに、天気予報を見るたびに気持ちが揺らぐ。「梅雨だし、雪もまだ残ってるらしいし、6月はやっぱり早いかな」。そんな気持ちになります。
私自身も、6月の山選びには毎年悩みます。判断材料が多い時期だからです。
でも結論から言うと、6月の北アルプスは登山者の少ない静かな山旅を楽しめる、隠れた当たり月。季節の境目を読める人だけが、この月を味方にできます。
「梅雨の晴れ間」という言葉があるように、6月にも青空はちゃんと降りてきます。問題は、その晴れ間を狙える準備ができているかどうか。準備さえ整えば、夏山シーズンの混雑前に、自分のペースで歩ける贅沢な一ヶ月が手に入ります。
梅雨と残雪、6月の北アルプスは「はざまの季節」
ゴールデンウィークが過ぎ、稜線の雪はだいぶ落ち着きました。ところが沢筋には、まだたっぷりと雪が残っています。そこに梅雨前線が重なってくる。これが6月の北アルプスの素顔です。
「夏まで待つべきか、それとも今しか見られない景色を狙うか」。判断に迷うのが当たり前。
「行く」「行かない」の二択ではなく、「どう行くか」で考えてみてください。
踏み込めない本当の理由は、山選びと装備のミスマッチ
6月の登山で苦労する人の話を聞くと、共通点があります。「梅雨だから」「残雪期だから」と、6月をひとくくりに避けてしまう。そして、行ける山が見つかっても、装備の組み合わせがチグハグになる。
問題の根っこは、季節をひとつの色で塗ろうとするところにあります。
6月の北アルプスは、標高や谷の向きで状況が大きく変わります。2000m台前半の樹林帯と、2800mの稜線では、別の山と思ってもいいくらい違うのです。
6月の山選びを難しくする、3つの原因
1. 天気を「街の予報」で読んでしまう
街でしとしと雨が降っていても、稜線は雲海の上に出ていることがあります。逆に、街は晴れているのに、谷筋だけ局地的な雷雨。6月は、こうした「ズレ」が頻発します。
ヤマテン(山岳気象専門の予報サイト)や、てんきとくらすの登山指数を見ない人は、ここで判断を誤ります。街の天気と山の天気は別物。これを前提に動くだけで、6月の選択肢はぐっと広がります。
2. 雪渓の状態を「去年の経験」で判断する
去年の6月に通れた雪渓が、今年も通れるとは限りません。冬の積雪量、春の気温、4月5月の融雪ペース。このどれが一つ違っても、雪渓は別物に変わります。
ヤマレコの直近の山行記録は、必ず2〜3本まとめて読んでください。沢筋の雪が割れて川が露出する箇所も増えるので、滑落のリスクは早めに把握しておきたいところです。
3. 装備を「夏」か「残雪」かに振り切ってしまう
軽アイゼンとレインウェア、半袖と薄手の中綿。6月は、両方をザックに詰め込む月です。どちらかに振り切ると、必ずどこかで困ります。
「重くなるから」と削った装備が、命綱になる季節でもあります。
梅雨と残雪を味方にする、3つの解決策
標高1500〜2500m帯を狙う
夏山のフルシーズンには物足りない、と感じる帯です。ところが6月は、ここがちょうどいい。雪渓のリスクが少なく、花の見頃もこの帯から始まります。新緑の樹林帯は雨が降っても歩きやすく、視界が悪くてもルートを見失いにくい。初心者に優しい条件がそろっています。
具体的には、長野県側だと唐松岳のリフト利用ルートや、霧ヶ峰の車山。岐阜県側なら笠ヶ岳の中腹までのトレースなど、選択肢は意外と豊富。標高を欲張らないことが、この時期の正解です。
行動時間を「早朝から昼まで」に絞る
午後の雷雨と夕立は、6月でも侮れません。朝5時に出発、12時に下山。この型を守るだけで、トラブルの大半は避けられます。
「早すぎるかな」と思うくらいの行動が、ちょうどいい。梅雨時期の山では、早出が一番の安全装備です。ヘッドランプを忘れずに、夜明け前から動ける支度を。
装備は「雨」と「冷え」を二重に備える
レインウェアの上下はもちろん、稜線で休むときの薄手の防寒着を一枚。化繊の長袖インナーをもう一枚予備に。この2点で、判断ミスのダメージはかなり減ります。気温が10℃前後の稜線で、濡れたシャツのまま風に当たると、体は一気に冷えます。
6月の山で頼れる装備3つ(私の手元の話)
道具のことは、迷う人が一番多い領域です。私が実際に6月の北アルプスで使っている装備のうち、これだけは外したくないと感じる3つを紹介します。
レインウェアはmont-bellのストームクルーザー
日本の山を知り尽くしたモンベルらしい、過不足のないレインウェア。蒸れにくさと耐久性のバランスがよく、雨の日でも汗冷えしにくい一着です。値段の安心感もあって、初めての一着に推せます。「とりあえずこれを着ていれば」と思える信頼が、何よりの装備。
バックパックはGREGORYのバルトロ/ディーバ
「背負うのではなく、着る」という言葉のとおり、6月の縦走で水と装備が増えても腰がぶれません。雨で重くなった装備を背負ったまま稜線を進むとき、肩にかかる負担の少なさで疲労の度合いがまるで違います。長時間歩く日ほど、価値を感じる一品。
登山靴はGoroのS-8
足にフィットし馴染んだ瞬間からは別格。重めの皮革は雨の沢渡りでも安心感があり、雪渓の縁を歩くときの信頼性も高い。手入れをしながら長く付き合える、いわゆる一生モノの一足です。道具に身を預けられる感覚は、6月の不安定な山ほど効いてきます。
今日からできる、6月登山の準備3ステップ
ステップ1:候補の山を3つに絞る
6月の北アルプスで、初心者・中級者でも狙いやすい山を3つ。1つ目は乗鞍岳。春山バスで標高2700mまで上がれて、雪の感触を残しつつ3000m峰に立てます。2つ目は燕岳。合戦尾根は樹林帯が中心で雪の不安が少なめ。3つ目は八ヶ岳の編笠山や入笠山。梅雨の晴れ間に花を楽しめる、初夏らしい山旅になります。
ステップ2:直近1週間のヤマレコを読む
候補の山ごとに、5月後半から6月初旬の山行記録を3本ずつ読んでみてください。雪渓の状態、登山道の崩落、虫の発生具合。読み比べると、自分が「行ける」山が自然と浮かび上がります。
ステップ3:装備を一度ザックから全部出す
夏装備に切り替えたつもりでも、抜けやすいのが6月の装備。レインウェア上下、軽アイゼン、薄手の防寒、予備の化繊インナー。この4点を、出発前夜にもう一度確認しておきたい。「持ってきてよかった」が「持ってこなきゃよかった」より、ずっと安心です。
梅雨を「行けない月」にしない
6月の北アルプスは、確かに難しい月。でも、その難しさの裏側に、人の少ない静かな尾根、雪解け水の沢音、咲きはじめのチングルマがあります。夏のピークを迎える前のこの一ヶ月だけの景色を、知っているのは行った人だけ。
準備をひとつ整えるごとに、6月の山は表情を変えてくれます。
あなたが向かう山が決まったら、装備リストの見直しから始めてみてください。完璧な準備ではなく、自分の弱点を一つだけ補う準備で十分です。詳しい装備チェックリストや、6月の山行記録は、今後も紹介していきます。
