
裏銀座縦走の魅力──”静かな北アルプス”を歩く
裏銀座。北アルプスの縦走路と聞くと、表銀座や大キレットを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも、もしあなたが「人混みを避けて、とことん山に浸りたい」と感じているなら、裏銀座縦走こそ、その答えです。
高瀬ダムから烏帽子岳に取り付き、野口五郎岳、水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳を経て槍ヶ岳へ──。3泊4日で北アルプスの奥深い稜線をつなぐこのルートは、表銀座に比べて登山者が少なく、それでいて展望は圧倒的です。
私自身も初めて裏銀座を歩いたとき、野口五郎岳の稜線で振り返った瞬間の景色が忘れられません。後立山連峰から立山・剱岳まで、北アルプスの名峰がぐるりと見渡せる。あの静かな感動は、裏銀座ならではのものでした。
個人的に、とことん山に向き合えるといいう意味でも、一番思い出深く心に残っているの登山がこの裏銀座です。(本当に楽しかった!)
この記事では、裏銀座縦走を計画しているあなたに向けて、ルートの全体像から各日の行程、山小屋や水場の情報、エスケープルートまで、必要な情報をまとめてお伝えします。
ルート概要──高瀬ダムから槍ヶ岳への稜線歩き

スタート地点:高瀬ダム(七倉からタクシー利用)
裏銀座の起点は、長野県大町市の高瀬ダムです。一般車は七倉山荘までしか入れないため、七倉から高瀬ダムまでは特定タクシー(約5分・片道約3,500円)を利用します。タクシーは登山シーズン中(7月中旬〜9月下旬)に運行しており、早朝5時台から乗車可能です。
七倉山荘には前泊もできるので、遠方からの方は前日入りしておくと余裕を持ってスタートできます。
主要ポイントと稜線のつながり
裏銀座縦走ルートは、以下の主要ポイントを結ぶ約40kmの稜線路です。
- 高瀬ダム(1,270m) ── 登山口。不動沢を渡り、ブナ立尾根に取り付く
- 烏帽子岳(2,628m) ── 特徴的な岩峰。烏帽子小屋が拠点
- 野口五郎岳(2,924m) ── 裏銀座の盟主。なだらかで雄大な山容
- 水晶岳(2,986m) ── 北アルプスの最深部に立つ日本百名山
- 鷲羽岳(2,924m) ── 鷲が羽を広げたような山容が印象的
- 三俣蓮華岳(2,841m) ── 富山・長野・岐阜の3県境に立つ山
- 双六岳(2,860m) ── 広大な台地状の山頂から槍ヶ岳を正面に望む
- 槍ヶ岳(3,180m) ── 北アルプスのシンボル。縦走のゴール
稜線に出てしまえば、あとはひたすら”空の道”を歩くだけ。 それが裏銀座の最大の魅力です。
行程と所要時間──3泊4日モデルプラン
ここでは、標準的な3泊4日プランをご紹介します。健脚な方は短縮も可能ですが、せっかくの裏銀座ですので、ゆとりあるスケジュールで山を楽しむことをおすすめします。
1日目:高瀬ダム → 烏帽子小屋(約6時間)
| 区間 | コースタイム |
|---|---|
| 高瀬ダム → ブナ立尾根登山口 | 約40分 |
| ブナ立尾根登山口 → 烏帽子小屋 | 約5時間20分 |
| 合計 | 約6時間 |
初日の核心は「北アルプス三大急登」の一つ、ブナ立尾根です。標高差約1,200mを一気に登ります。番号が振られた道標(12番→1番)を目安に、自分のペースでじっくり登りましょう。
烏帽子小屋に荷物を置いて、余裕があれば烏帽子岳まで往復(約1時間)するのもおすすめです。

2日目:烏帽子小屋 → 野口五郎岳 → 水晶小屋(約7時間)
| 区間 | コースタイム |
|---|---|
| 烏帽子小屋 → 野口五郎小屋 | 約3時間30分 |
| 野口五郎小屋 → 野口五郎岳 | 約20分 |
| 野口五郎岳 → 東沢乗越 | 約1時間30分 |
| 東沢乗越 → 水晶小屋 | 約1時間30分 |
| 合計 | 約7時間 |
裏銀座のハイライトは、間違いなくこの2日目です。 烏帽子小屋を出ると、砂礫の稜線が果てしなく続きます。野口五郎岳の山頂からは360度のパノラマ。槍ヶ岳、穂高連峰、立山・剱岳、遠くには富士山まで見えることもあります。
水晶小屋は北アルプス最深部の小さな山小屋です。余裕があれば水晶岳(黒岳)の山頂まで往復約1時間で行けますので、ぜひ足を延ばしてください。


3日目:水晶小屋 → 鷲羽岳 → 三俣山荘 → 双六小屋(約5時間)
| 区間 | コースタイム |
|---|---|
| 水晶小屋 → ワリモ北分岐 | 約30分 |
| ワリモ北分岐 → 鷲羽岳 | 約1時間 |
| 鷲羽岳 → 三俣山荘 | 約50分 |
| 三俣山荘 → 三俣蓮華岳 → 双六小屋 | 約2時間40分 |
| 合計 | 約5時間 |
この日は行程が短めなので、朝は少しゆっくりスタートしても大丈夫です。鷲羽岳の山頂から見下ろす鷲羽池とその奥に広がる槍ヶ岳の眺めは、北アルプス屈指の絶景ポイントです。
三俣山荘で名物のジビエシチューを味わうのも、この縦走の楽しみの一つ。三俣蓮華岳を経由して双六小屋へ向かいます。
ここまで来ると、槍ヶ岳がぐっと近づいてきます。明日のゴールが見えるこの瞬間が、縦走の醍醐味です。



4日目:双六小屋 → 槍ヶ岳 → 上高地(約9時間〜)
| 区間 | コースタイム |
|---|---|
| 双六小屋 → 樅沢岳 → 西鎌尾根 → 槍ヶ岳山荘 | 約5時間 |
| 槍ヶ岳山荘 → 槍ヶ岳山頂(往復) | 約1時間 |
| 槍ヶ岳山荘 → 槍沢ロッヂ | 約2時間 |
| 槍沢ロッヂ → 横尾 → 上高地 | 約3時間30分 |
| 合計 | 約9時間〜(休憩含まず) |
最終日は長丁場です。早朝出発が必須です。
西鎌尾根は槍ヶ岳に向かってぐんぐん高度を上げていく、爽快な稜線歩きです。ただし、痩せ尾根やクサリ場が一部あるので、慎重に通過しましょう。また、槍ヶ岳まで急坂がひたすら続くので、体力的には裏銀座最大の難所です。千丈乗越を過ぎると槍ヶ岳山荘はもう目の前です。
槍ヶ岳の穂先は最後のハシゴ・クサリ場。混雑時は渋滞することもあるため、時間に余裕を持って臨んでください。山頂に立った瞬間、3泊4日の旅を振り返るとなんともいえない高揚感があります。
下山は槍沢ルートで上高地へ。横尾から上高地までは平坦な林道歩きが約3時間続きますので、最後の体力を残しておきましょう。上高地からは松本方面へバスが出ています。

見どころ・注意点
山小屋の予約は必須
裏銀座ルート上の主要な山小屋と、目安の料金(1泊2食付き)は以下のとおりです。
- 烏帽子小屋 ── 約14,000円/営業期間:7月中旬〜9月下旬
- 野口五郎小屋 ── 約14,000円/営業期間:7月中旬〜9月下旬
- 水晶小屋 ── 約14,000円〜/営業期間:7月中旬〜9月下旬
- 三俣山荘 ── 約14,500円〜/営業期間:7月上旬〜10月上旬
- 双六小屋 ── 約14,000円〜/営業期間:7月上旬〜10月上旬
- 槍ヶ岳山荘 ── 約15,000円〜/営業期間:4月下旬〜11月上旬
近年は完全予約制の山小屋が増えています。シーズン中は予約が早期に埋まることも多いので、計画が決まったら早めに予約しましょう。 特に7月下旬〜8月中旬の週末は混み合います。
水場情報
稜線上は水場が限られるのが裏銀座の特徴です。主な水場を把握しておきましょう。
- ブナ立尾根登山口付近 ── 沢水あり(最後の豊富な水場)
- 烏帽子小屋 ── 小屋で購入可能(天水利用のため有料)
- 野口五郎小屋 ── 小屋で購入可能
- 水晶小屋 ── 小屋で購入可能(天水利用・水量制限あり)
- 三俣山荘 ── 豊富な水場あり(小屋近くの沢)
- 双六小屋 ── 水場あり
烏帽子小屋〜三俣山荘の間は天然の水場がほぼありません。 各山小屋で確実に補給してください。夏場は1日あたり2L以上の水を消費しますので、計画的な水分確保が安全な縦走の鍵です。
エスケープルート
裏銀座は北アルプスの奥深い場所を通るため、途中でルートを外れる選択肢は限られます。事前に把握しておくことが大切です。
- 湯俣温泉方面(竹村新道) ── 野口五郎岳付近から南真砂岳を経て湯俣へ下山可能。ただし渡渉があり、悪天時は困難
- 三俣山荘 → 新穂高温泉 ── 三俣蓮華岳を経由せず、黒部五郎小舎方面または小池新道方面へ下山。比較的安全なエスケープルート
- 双六小屋 → 新穂高温泉(小池新道) ── 鏡平山荘経由で新穂高へ下山。最も一般的で安全なエスケープルート(約5時間)
天候が崩れそうなときは、無理をせず双六小屋から小池新道で下山する判断も大切です。 山はいつでも待っていてくれます。
装備のポイント
裏銀座は3泊4日の長期縦走になるため、装備の軽量化がとても重要です。
- 防寒着は真夏でも必須(稜線上は風が強く、体感温度が一気に下がります)
- 雨具は上下セパレートのしっかりしたものを
- ヘルメットは西鎌尾根〜槍ヶ岳で推奨(落石リスクあり)
- ストックがあると長い稜線歩きで膝への負担を軽減できます
まとめ──裏銀座を歩いた先に待つもの
裏銀座縦走は、北アルプスの奥深い稜線を3泊4日かけてじっくり歩く、登山者にとって特別な山旅です。
表銀座や燕岳〜大天井岳のような華やかさとは違う、静かで、雄大で、自分と山だけが向き合えるような時間がそこにはあります。ブナ立尾根の急登を越えた先に広がる稜線、野口五郎岳の360度の展望、鷲羽池越しに見る槍ヶ岳、そして最終日に西鎌尾根から槍の穂先に立つ達成感──。
「いつかは裏銀座を歩きたい」と思っているなら、今年こそ、挑戦してみませんか!?
まずは山小屋の予約状況を確認するところから始めてみてください。計画を立てるその時間も、山旅の一部です。
次のステップとして、裏銀座と組み合わせやすい「読売新道」や「雲ノ平」への周回ルートもおすすめです。北アルプスの最深部は、一度では歩き尽くせないほどの魅力が詰まっています。
